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本サイトは、情報・システム研究機構 統計数理研究所のプロジェクト研究「日本人の国民性の統計的研究と国際比較調査」の一環として、国際比較調査チームにより2004年度に遂行された「日本調査04A」と「日本調査04B」に関する報告書に基づいている。これらの調査はほぼ同時に遂行され、調査票の項目が一部重複している。今後、東アジアを中心とする海外調査を遂行し、国際比較データを形成する予定である。また、同様の調査を数年間隔で繰り返すことにより、時系列的かつ国際比較調査データとなることをも計画している。
研究の主要な目的の一つは、我々の標榜する「データの科学」という統計哲学の下で、日本を含む世界の人々の価値観や態度、意識構造を比較し、各国の相互理解を促進し、政治・経済の平和的発展の一助となる基礎情報を科学的に収集し、解析することである。この研究は歴史的には、統計数理研究所における1953年以来の「日本人の国民性」調査及び1971年以来の「意識の国際比較」調査の延長上にある。「日本人の国民性」は戦後民主主義の基盤としての官民の世論調査発展と緊密に結びつき、「意識の国際比較」は様々な国々の
連鎖的比較方法論(Cultural Linkage Analysis, CLA)の確立につながった。そして、さらにこれは最近の我々の国際比較調査研究とともに、計量的文明論の確立を目指す一連の調査研究へ発展している。
その背景と意義は、以下の通りである。
冷戦が終了し、世界情勢のダイナミックな変動があり、政治、経済、社会の伝統的枠組が大きく変わり、社会生活の基盤であった人々の信頼のあり方も大きな影響を受けている。伝統的な産業社会から高度情報化社会への遷移期にもあり、従来の家庭、学校、職場での人間関係のあり方も崩壊しつつあり、新たな時代の流れが確立するまで混乱した社会が続くのであろう。
一方、政治経済の視点からは、欧州共同体や南北アメリカ圏のみならず、東アジア圏の再編成が唱えられている。東南アジアを含む東アジア圏は、欧州とは異なり、多様な文化、歴史を背景に持つ国々や地域の集合であり、政治にせよ経済にせよ、それらの統合は必ずしも容易ではないであろうが、現実にはASEAN等の協力関係が推進されつつある。実際、私が本調査研究の申請時に、タイトルとして「東アジア」という言葉を用いた際には、この言葉はまだ一般的ではなかった。しかし、今日では「東アジア共同体」の提唱など、既に実体を持った言葉となっている。
また、かつてMax Weberは「プロテスタンティズムと資本主義の精神」との関係を論じた中で、儒教の影響がある中国などのアジアの国々に対しては資本主義の順調な発達に否定的な見解をのべていた。しかし、日本は明治維新以降、そして戦後に目覚しい発展を見せてきた。その例外を説明するために、日本は儒学の影響はあったが、儒教が生活に入り込むことはなかったなどの議論がなされたこともあった。しかし、さらにその後のNICS,NIESなど台湾、韓国、東南アジアの国々の発展、そしてこの10年ほどの中国の目覚しい発展は、特定の宗教や倫理と経済発展との関係を簡単に論じることは賢明ではないことを証明している。また、特に中国の過去数十年の急激な社会変化は、「社会体制と国民性(国民の意識構造)との相互関係」という社会学の主要テーマに対して、大きな示唆を与えるであろう。
我々はこういった世界の流れを適格に把握し、将来を見通すための実証的基礎情報を収集すべく、各国、各機関が様々な社会調査、国際比較調査を遂行している。例えば、世界価値観調査(World Value Survey)は世界の20~30数カ国で共通質問項目を用いた国際比較調査データや時系列比較可能なデータを提供し、学術研究にも行政施策にも資するところが大きい。しかしながら、例えば、最近の中国調査の実情を詳細に調べてみると疑義が隠せない。国際比較調査では質問項目を各国の言語に適切に翻訳することが重要な手続きであるが、各国内の事情の差異を見過ごしたための誤訳が見受けられる。また統計的標本抽出調査の手続きの計画が、調査の現場でどこまで尊守されているのか、報告された回収率などを考えると疑義を持つ調査研究者は少なくない。
以上のような背景があり、我々は、アジアの調査はやはりアジアの人々により慎重に推進されるべきであるという認識に至った。我々は各国でどの程度統計学的に適正な標本抽出調査が遂行でき、また国際比較可能性が保てるかという課題を自ら実証的に検討することを主眼にし、それを把握した上で東アジア諸国の人々の価値観や意識を比較分析する課題に取り組もうとしているものである。
今回の調査票は、一般社会意識調査としてのスタイルをとり、人々の生活一般に関する多様な項目を含めている。しかし、特に21世紀の変わり目の急変しつつある世界情勢、そしてその中でも、急速に変化する東アジアの国々と、数々の問題を抱えながらも再秩序化されつつある国家間の関係を考慮して、日本と他の東アジアの諸国の人々の価値観、対人的信頼感や法意識を含む人間関係に関する意識、自然観や生命観の統計的解明に適切かと思われる項目を検討して試行している。これらのテーマに関する項目を、一部、重複させながら、日本04Aと日本04Bの二つの調査票にした。重複部分は基本的な価値観や態度に関する項目が多く、2つの調査間での同項目に対する回答の安定性や、それぞれの調査内での人々の回答の多次元パターン解析等を意図するためである。社会調査、特に国際比較調査では費用、時間、労力のみならず様々な技術的な限界が常に付き纏うものであり、決して目前の多様な問題解決へ直ちに繋がるような調査項目の選定は容易ではない。今後の各方面での調査データや情報とともに、相補的に事を考慮して研究を推進するのみである。
調査質問票は、これまでの国際比較調査で用いられてきた項目やそれらを一部修正した項目を取り入れ、さらに今回の調査のために作成した新項目などで構成した(本報告書の5c.項目の履歴を参照)。(日本調査04Aは、科学研究費補助金・基盤研究A(2)による「東アジア価値観国際比較---信頼感の統計科学的解析」の成果に基づき、東アジアの地域の比較調査にふさわしい意識の一般調査票、日本04Bは自然観・生命観・東洋的合理性の解明に若干重点をおいた意識の一般調査票となることを意図した。特に後者では、焦点を当てたいテーマのみの項目群となることを避け、様々なテーマの項目の全体の中で自然に当該のテーマに関する回答パターンが浮かび上がることを意図した。)
詳細なデータ解析は、避けられない各国・各地域の言語の差異、調査方法の差異などを考慮し、単純に回答分布の皮相な数学の大小比較ではなく、今後収集されていく他の関連諸国・地域の調査データや資料、情報とともに、慎重に時間をかけて安定したパターン構造を浮かび上がらせるような分析がなされて行くべきである。
研究テーマ | 東アジア価値観国際比較調査 (文部科学省 科学研究費補助金・基盤研究A(2) No.14252013(代表 吉野諒三 平成14年度から17年度)) |
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対象 | 日本・北京・上海・香港・台湾・韓国・シンガポール |
調査項目 | 各地域の人々の一般的意識構造、特に対人関係、集団内や集団間、社会制度やリーダーに関する「信頼感」を主とした項目 |
研究主体 | 統計数理研究所 |
Web公開上の技術的問題から、表示形式等に、本来のものと異なる箇所が存在する。正式なものは、統計数理研究所研究「2004年日本A調査報告書」、「2004年日本B調査報告書」に掲載されている。データを利用する際は、これらを必ずご参照していただきたい。